5,国木田独歩(くにきだどっぽ)の「忘れぬ人々」から
・・・・・・昨日降った雪がまだ残っていて高低定まらぬ藁屋ねの南の
軒先(のきさき)からは雨滴(あまだれ)が
風に吹かれて舞うて落ちている。草鞋(わらじ)の
足跡に溜まった泥水にすら寒そうな漣(さざなみ)が立っている。日が暮れるとまもなく大概(たいがい)の店は戸を閉めてしまった。・・・・・・
6、田中貢太郎の「旋風(せんぷう)時代」から
明治四年三月のことであった。明治は翌五年に太陽歴を採用して、その十二月三日を六年の正月元旦としたので、この四年三月は太陰暦の四年三月であった。・・・・・・